これからの労働事情について


 昨日から2日間、奈良県に於いて全国知事会が開催されています。栃木県からも福田知事が参加をしていますが、報道にもあるように議題の中心はコロナウイルス感染症対策についてです。急激な感染者増で、現在の医療体制逼迫の状況や病床使用率の対応策を考慮すると、2類相当からインフルエンザと同等の、5類相当に引き下げるべきとの意見が出されています。政府の回答としては、「国民が負担する医療費等考慮すると、今すぐにということは出来ない。」という回答ですが、そうであれば、段階を踏んでいつまでにどうするということを明らかにしてほしいものです。この間も検討の余地はあったはずです。コロナウイルス感染症が急激に増加したから、ということは言い訳にしか聞こえません。増えれば規制するの繰り返し、そして、後手後手の政策の付けが、今の問題を招いています。

 日本は、少子高齢化、継続的な人口減少局面に入り14年が経過しているのに、労働力不足を克服し、年金、医療、介護の機能不全を防ぐ道筋は見えていません。労働市場ではコロナウイルス感染症の前から、人手不足が顕著の中で、パーソル総合研究所、中央大学は、共同研究として取り組んできた「労働市場の未来推計2030」の成果を発表しました。

2030年の人手不足の推計値は644万人。産業別にみると、人手不足が最も生じるのはサービス業で400万人。次いで医療・福祉の187万人。職業別にみると、人手不足が最も生じるのは専門的・技術的職業従事者で212万人。都道府県別にみると、人手不足が最も生じるのは東京で133万人。人手不足の対策として、働く女性・シニア・外国人を増やすこと、AI等の技術革新による生産性向上が考えられ、働く女性を102万人、シニアを163万人、外国人を81万人増やし、AI等の技術革新で298万人を代替できれば、644万人の不足を埋められると提言しています。

2030年時点で働く女性を102万人増やすためには、未就学児童の保育の受け皿として、116.2万人分追加する必要があり、女性の25~29歳の労働力率88.0%が45~49歳まで継続した場合を想定していて、現実的に大変厳しいものとなっています。現状(2017年4月時点)の保育の受け皿は273.5万人分であり、合計389.7万人分必要となります。保育の受け皿は増えてはいるものの、まだ十分とは言えません。

高齢者雇用は年齢を理由に差別されない労働市場づくりが課題となっています。この問題については、労使による協議は勿論、政府による高齢者雇用促進の環境整備も必要です。

外国人労働者は、日本人労働者と格差があるなど「外国人に選んでもらえる国」にする取り組みが不十分となっています。まして現状を考えると、コロナ感染症による受け入れ規制や、円安が進み、日本で稼げない状況が長引くことになれば、なお一層労働力不足は深刻になってしまいます。

 人手不足で最も重要なものが生産性向上ですが、これを後押しする労働市場改革は、ほぼ手つかずと言えます。経済協力開発機構(OECD)の調査によりますと、金融など日本で自動化される可能性が高い仕事に就く労働者の割合は7%、パーソルは自動化が進めば30年までに298万人分の人材を捻出しうると分析していますが、労働市場の流動性が乏しいため、現状ではこうした人材が自動化困難な介護などの仕事にシフトする労働移動は進まないとみています。

社会保障制度改革も進んでいない状況で、負担と給付の世帯間格差を急いで是正しないと、現役世代は高齢者の医療・介護をさせる負担がどんどん重くなっていく。年金制度も「100年安心プラン」と銘打った年金減額が進まずこのままでは、将来世帯の基礎年金が大きく目減りしてしまいます。

こうした課題が明らかになっているにもかかわらず、少子高齢化を克服する改革は、一向に進んでいません。コロナウイルス感染症対策と同じです。だからと言って、傍観者で居る訳には行きません。連合が展望するのは、「働くことに最も重要な価値を置き、誰もが公正な労働条件のもと、多様な働き方を通じて社会に参画できる社会」であり「持続可能性」と「包摂」を基底に、互いに認め支え合い、誰一人取り残されない社会です。連合は、引き続き持続可能な開発目標SDGsの達成に向けて、様々な団体・組織と連携して、政策制度要求と提言、実現運動に積極的に取り組んでまいります。