2013年9月7日、東京は財政基盤が安定していて、世界で最も安全な都市であるとアピールし、2020年東京大会の開催が決定しました。滝川クリステルさんがプレゼンして“おもてなし”と言い、当時の流行語にも選ばれました。日本での五輪開催が決まった時は、東日本大震災から3年後で、暗い話題が多かったこともあり、日本中が歓喜の渦に包まれました。あれから7年と7か月が経過しました。この間、何が起きたのか振り返ってみたいと思います。国立競技場をめぐっては、デザイン案にイギリスに事務所を置くイラク人の女性建築家、ザハ・ハディドさんのデザインが選ばれましたが、この年の7月、安倍総理大臣は、建設費が膨らんだことに対する批判が強まっていることを踏まえ「計画を白紙に戻す」と表明しました。その後、建築家の隈研吾さんが設計することが決まり、2019年11月30日、新しい国立競技場が完成しました。また、エンブレムをめぐっては、発表の直後にベルギーのグラフィックデザイナーが、以前作ったベルギーの劇場のロゴマークに極めて似ていると主張。佐野氏はエンブレムについては「模倣していない」と盗用を否定しましたが、インターネット上の画像を無断で転用していたことを認めました。改めてエンブレムが決定したのは2016年4月になってしまいました。さらに、招致をめぐる贈賄疑惑が発覚し、竹田前会長は「今回世間を騒がせたことを大変心苦しく思っている」として会長を退任することを表明しました。新しいところでは、組織委員会の当時の森会長が、女性蔑視と言われた発言による辞任、コロナウイルス感染症による開催延期など、麻生大臣が「呪われた五輪」と問題発言もありましたが、これだけごたごたが続くと、そう言いたくなるのも止むを得ないでしょうか。その他にも2020年開催の間もない時期に突然、競歩とマラソン会場を北海道に変更することが決定しました。この問題については、小池都知事が、「アスリートファースト」という言葉で落着しました。今コロナ禍の現状で、「アスリートファースト」という人は皆無に近いと思います。言いたくても言えないといった方がいいでしょうか。このような中で、陸上男子400メートル障害で、00シドニー、04アテネ、08北京と3大会連続五輪出場の為末大氏が、〈重圧にさらされる選手〉と題し「言論」の中で想いを綴っていますので紹介します。
―東京オリパラが延期された昨年から、「当たり前のことがあたりまえでないことに気づいた」「感謝したい」という選手たちの声が増えた。コロナ禍は社会に不条理な状況をもたらしている。世界で格差が広がりつつある日本ではまだ分断は辛うじて生まれていないが、状況は厳しい。これを防ぐには困窮している人々への支援と、自分以外の人生を創造し「私たちは同じ船に乗っている」という共同体感覚を持つことではないか。五輪の一つの意義は、アスリートを通して「私たち」という感覚をさまざまなレベルで認識しなおすことにある。―
五輪に関しては、様々な分野の方がそれぞれの立場で、発信していますが、世論を含め中止すべき、延期すべきという意見が多くなっています。今回のコロナ禍を鑑みればそのような世論の声になることは仕方ありません。しかし、7年前の五輪招致で、日本は、世界で一番安全だと言っていたことは、今ではまやかしにしか聞こえません。本当に日本で五輪を開催したかったのか、1年前に延期が決まった時に、計画的にコロナウイルス感染症対策や世論喚起がなぜできなかったのか、疑問で仕方ありません。為末氏のいう「私たちは同じ船に乗っている」という言葉は、五輪の一つの意義としてアスリートを通して「私たち」という共同体感覚を認識することだといっています。
政府の新型コロナ対策分科会の尾身会長は、「何のために五輪を行うのか」と踏み込んだ発言をされています。私は、アスリートの皆さんがこの大会に出場するために日頃から、努力を重ね、切磋琢磨していることを尊重し、子どもたちが将来の夢と希望として掲げられる五輪であってほしいと願っています。ですから、五輪が政争などに使われることは違うと考えます。勿論、尾身会長の発言もそうではありませんが、受け止め方によっては、五輪が悪いとも受け止められてしまうような発言が増えていることに危惧しています。
開催に向けて私たちが出来ることは、一日も早いワクチン接種です。医療従事者は基より、関係機関にはご苦労戴きますがよろしくお願いします。いずれにしても、コロナウイルス感染症が無ければ、東京五輪は既に昨年に開催されていましたので、今回こうして、多くの意見を伺う機会が出来たことは、今後の礎として受け止めることができたと考えています。コロナウイルス感染症対策に追われていて、現状進めなければならないことが疎かにならないよう、連合栃木としては、引き続き関係機関と連携し、労働運動を展開して参りたいと考えています。ご支援賜りますようお願いします。